有給休暇の取得率56.3%で過去最高に

厚生労働省は10月30日、令和2年「就労条件総合調査(*)」の結果を取りまとめ、公表しました。

*就労条件総合調査…民間企業の就労条件を明らかにすることを目的とした調査で、その調査対象は常用労働者30人以上の民営企業です。

●有給休暇の取得率は56.3%、取得日数は10.1日でいずれも過去最高を記録

公表された令和2年「就労条件総合調査」によると、2019年に企業が付与した年次有給休暇日数(繰越日数は除きます。)は、労働者1人平均18.0日、そのうち労働者が取得した日数は10.1日、取得率は56.3%で、取得日数・取得率ともに過去最高となりました。

ちなみに、男女別でみると、男性の平均付与日数が18.4日となっているのに対し、女性は17.1日となっており、女性の方が平均付与日数は少ないものの、取得日数(男性9.9日、女性10.4日)や取得率(男性53.7%、女性60.7%)では男性をやや上回っています。

●有給休暇取得日数・取得率の押し上げは働き方改革が影響か

では、有給休暇の取得日数・取得率がともに過去最高を記録した要因は一体何なのか?ということですが、これは2019年4月に施行された働き方改革関連法が影響しているものとみて間違いなさそうです。

もう少し具体的にいえば、2019年4月に施行された働き方改革関連法において、有給休暇の確実な取得を目指し、企業は、年10日以上の有給休暇が付与される全ての労働者に対し、毎年5日間、時季を指定して有給休暇を与えなければならないとの新たなルールがスタートしたためです。

●毎年5日間、時季を指定して有給休暇を与えるとは?

2019年4月に法改正がなされるまで、企業は、有給休暇について労働者に取得させる義務はありませんでした。ですが、同僚・上司への配慮やそもそも仕事が忙しくて休めない、有給休暇を請求することへのためらい等が原因で有給休暇の取得がなかなか進まない実態があり、その取得促進は課題とされてきました。

このため、労働基準法が改正され、2019年4月からは、全ての企業において、年10日以上の有給休暇が付与される労働者に対し、付与された日数のうち年間5日間については、会社がその時季を指定して有給休暇を取得させることが義務(以下、これを「時季指定義務」といいます。)付けられることになりました。

ここで少し注意をして頂きたいのが、年間5日間の有給休暇の取得については、中小企業や零細企業を対象とした猶予制度は設けられていないという点です。猶予制度が設けられていないということは、中小企業や零細企業であっても対応が必要となっていますので、この点は注意して下さい。

では、時季指定義務は一体どんな労働者が対象になるのでしょうか?また、いつまでに5日間を指定すれば良いでしょうか?時季指定義務に関するルールを簡単にまとめるめと次の通りになります。

①対象となる労働者とは?

時季指定義務の対象となるのは、有給休暇が10日以上付与される労働者です。この労働者には管理監督者、パートタイマーやアルバイト等の有期雇用労働者も含まれますので注意して下さい。ただし、パートタイマーやアルバイト等で比例付与(労働基準法39条3項)により付与される有給休暇が10日に満たない労働者は除かれます。

②時季指定の期間とはいつからいつまで?

労働者に有給休暇を付与した日(基準日)から1年以内に5日、その取得時季を指定して付与する必要があります。

③時季指定の必要がないケース

労働者本人が請求し取得した有給休暇や、計画年休制度(労働基準法39条6項)により取得した有給休暇がある場合には、その日数分は時季指定義務が課される5日間から差し引かれます。ですので、例えば既に労働者本人が私用等で5日間の有給休暇を請求し取得している場合には、会社から時季指定を行う必要がなくなります。また、このようなケースでは時季指定を行うこともできないとされています。

④有給休暇管理簿の作成と保存

労働者ごとに有給休暇管理簿を作成し、有給休暇を与えた期間中(その年度)とその期間の満了後3年間保存しなければならないとされています。管理簿については、労働者ごとに有給休暇を与えた時季、日数、基準日を記載する必要がありますので、漏れがないように注意しましょう。

⑤罰則の有無

時季指定義務にかかる年間5日間の有給休暇を取得させなかった場合、30万円以下の罰金が科されることがあります。なお、この罰則は企業単位ではなく労働者1人につき1罪として取り扱われますので、対象の労働者が多くなると、その額が高額となる恐れもあります。

●有給休暇に関する事項は就業規則に必ず必要

休暇に関する事項は、就業規則に必ず記載しなければならない事項(「絶対的必要記載事項」といいます。)にあたるため、時季指定の対象となる労働者の範囲や時季指定の方法等については、就業規則に必ず記載する必要があります。

時季指定を行う場合において、就業規則に記載していない場合は、労働基準法違反として30万円以下の罰金が科されることがありますので、企業としては、就業規則が整備されているか確認しておきましょう。

●まとめ

最後に今回ご紹介した時季指定義務のポイントについて簡単にまとめると次の通りです。

  • 時季指定義務は中小企業や零細企業であっても対応が必要
  • 時季指定義務の対象となるのは有給休暇が10日以上付与される労働者
  • 有給休暇を付与した日(基準日)から1年以内に5日、その取得時季を指定して付与しなければならない
  • 労働者ごとに有給休暇管理簿の作成が必要
  • 時季指定については就業規則に記載することが必要

上記でもご紹介しましたが、違反すると罰則が科されることもありますので、きちんと対応しておきましょう。

就業規則への規定の仕方がよく分からずお困りの場合やこれを機にその他の箇所を含めて就業規則の見直しを検討したい等ありましたら、どうぞお気軽に弊所までご相談ください。