新型コロナウイルスに感染した場合の労災保険について

猛威を振るう新型コロナウイルス感染症。冬場に入りその勢いを増しているところですが、職場で新型コロナウイルスに感染したとして労災請求が行われた件数は11月25日時点で2167件に達しており、現在の感染状況からすると、今後もその請求件数は増加が見込まれるところです。

今回のブログでは、職場で新型コロナウイルスに感染した場合、どのようなケースで労災保険給付の対象になると考えられるのかを厚生労働省のQ&Aを基にご紹介していきたいと思います。

●新型コロナウイルス感染症に関する労災請求件数

厚生労働省のホームページで公開されている11月25日時点の情報によると、労災請求件数は2167件となっており、このうち医療従事者等が全体の約8割にあたる1687件、製造業や運輸業等の医療従事者等以外が472件、その他海外出張者が8件となっています。

なお、決定された件数については、こちらも11月25日時点の情報では、医療従事者等が939件、医療従事者等以外が217件となっており、約半数で決定がなされているとのことです。

●業務で感染した場合に労災保険給付の対象となるのは?

従業員が新型コロナウイルスに感染した際、労災保険給付の対象となるかという点についてですが、厚生労働省のQ&Aに取りまとめがなされていますので、それに沿って紹介していきます。

まず、新型コロナウイルスに感染し、感染経路も判明、感染が業務によることが明らかであると認められた場合についてですが、これについては労災保険給付の対象となるとされています。

では、感染経路が判明しない場合はどうでしょうか?そういったケースは全て対象外とされてしまうのでしょうか?

これについては、労災保険給付の対象とならないかというと、必ずしもそうではありません。仮に感染経路が判明しない場合であっても、感染リスクが高いと考えられる『複数の感染者が確認された労働環境下での業務』や『顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下での業務』などに従事していた場合は、潜伏期間内の業務従事状況や一般生活状況を調査し、個別に業務との関連性が判断されることになります。

『複数の感染者が確認された労働環境下での業務』や『顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下での業務』について、もう少し掘り下げると、この点について厚生労働省からさらに詳細が示されています。

『複数の感染者が確認された労働環境下での業務』については、労災の請求人を含め、2人以上の感染が確認された場合で、請求人以外の他の労働者が感染している場合のほか、例えば、施設利用者が感染している場合等を想定しているとしています。なお、同一事業場内で、複数の労働者の感染があっても、お互いに近接や接触の機会がなく、業務での関係もないような場合は、これに当たらないと考えられるとしています。

また、『顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下での業務』についてですが、これについては、小売業の販売業務、バス・タクシー等の運送業務、育児サービス業務等を想定しているとしています。

なお、医師や看護師などの医療従事者や介護従事者については、その仕事上の特性から業務外で感染したことが明らかな場合を除いて、原則として労災保険給付の対象となるとされています。

新型コロナウイルスに関わらずですが、労災については、明らかな業務災害を除いて判断が難しいケースがあります。また、労災保険給付の対象となるかどうかを決定するのは会社ではなく労働基準監督署です。従業員が新型コロナウイルスに職場で感染したと疑われるようなケースが発生した場合は、従業員にスムーズな案内ができるよう早めに労働基準監督署へ相談し、対応を進めることも一つの方法です。

●まとめ

最後に今回ご紹介した新型コロナウイルス感染症に関する労災請求件数や新型コロナウイルスに感染した場合の労災保険について簡単にまとめると次の通りです。

  • 新型コロナウイルスに感染したとして労災請求が行われた件数は約2000件で今後も増加が予想される
  • 新型コロナウイルスに感染し、その感染経路が業務によることが明らかであると認められた場合は、労災保険給付の対象
  • 経路不明であっても、感染のリスクが高い業務に従事し、それによって感染した蓋然性が高い場合は、労災保険給付の対象
  • 医療従事者や介護従事者については、業務外で感染したことが明らかな場合を除いて、原則として労災保険給付の対象
  • 職場で感染したと疑われるようなケースが発生した場合は早めの対応を

新型コロナウイルス感染症にかかる社内の労務管理に関するご相談やその他の労務相談等ありましたら、どうぞお気軽に弊所までご相談ください。